接種後に30歳息子が死亡、涙ぐむ父 因果関係は不明
朝日新聞 福冨旅史、東郷隆 2021年8月31日配信1
父親によると、男性は接種翌日の8月23日に発熱で仕事を休んだが、その際は解熱剤などで熱は下がったという。24日は回復して出勤。自宅で母親と夕食をとり、午後9時ごろに自室へ戻った。だが25日朝、出勤時間になっても起きて来ないため母親が部屋へ行くと、布団の上でうつぶせの状態で亡くなっていたという。基礎疾患やアレルギー歴はなかった。
父親は、使用見合わせとなったワクチンのロット番号が長男のものと同じと知り、「信じられなかった」という。「死因はワクチン以外考えられない。なぜ異物なんかが混じっていたのか。国は対処が遅すぎる」。ワクチンは必要だと考えるが、「安全が伴っていないと何の意味もない。息子は亡くなる必要がなかった。同じように亡くなる人が出ないように国は調査を急いでほしい」と訴える。厚労省は死亡と接種の因果関係は不明とし、専門家による分析を進めるとしている。(福冨旅史、東郷隆)
接種後に30歳息子が死亡 「勧めたのは私」涙ぐむ父 福冨旅史、東郷隆2021年8月31日 朝日新聞
基礎疾患やアレルギー歴の無い広島県の30歳男性が、接種後3日目の朝に死亡したというもの。
打ったのはモデルナ。尚記事中に異物混入のロットと同じ番号だったと報じられているが、正確には「異物混入が確認されたロットと同時期に同設備で製造されたことにより使用を見合わせられたロット」2
記事を見つけ飛んでくる救急医Taka3
「まーたやっとりますなあ」
「朝日新聞読んでるときに心停止になった人の記事だって出たっていい。」
救急医Takaの長文反論
この報道に問題を感じた救急医Takaこと木下喬弘氏は長文での解説を投下。4
Twが多数に及ぶので、以下にまとめる。
ご子息を亡くした方の無念は察するに余りありますし、亡くなった方のご冥福を心からお祈りいたします。 その上で、科学的な観点から一定の見解を示す必要性を感じましたので、長くなりますが書きます。
救急医としては、20代や30代の方が突然の心停止で搬送されてくることはそんなに珍しくありません。 しかし、私の友人で20代30代で心停止を経験した人は知りません。 数十万人という人口の中で発生した心停止を、1つの救命センターで診療しているとそうなります。 数千人ではそうなりません。
今回のワクチンは1億回以上打っているわけですから、当然ワクチン接種の数日以内に、偶然心停止が起こることは想定されます。 しかし、当事者になってみると、あまりに急な出来事で、にわかには信じられないのは当然のことです。 ワクチンが原因だと考えても不思議ではありません。
この記事の何が問題かというと、今専門家が「混入していた異物はなんだったのか」ということを調べている途中にも関わらず、「ワクチンが原因だと信じている人」のナラティブを紹介したことです。 これは2013年に「杉並区が補償することを決めた」HPVワクチンの有害事象の女性の報道以上に悪質です。
では、このようなことが今回のモデルナのワクチンが原因で起こりうるのでしょうか。 ポイントとしては、 1. そもそもモデルナのワクチンで起こりうるのか 2. 異物の混入によって起こりうるのか という2点になると思います。 結論としては、情報不足ではありますが、どちらも考えにくいです。
まず、モデルナのワクチンでの確かな死亡例は日本でも米国でも見つかっていません。 ただし、「ワクチンによって起こる」心筋炎が原因で死亡した事例は、韓国などで報告はされています。 このように、ワクチンが原因で亡くなるのであれば、何かの疾患を引き起こして亡くなる可能性が高いです。
この方が心筋炎を発症していて、その後亡くなったのであれば、ワクチンが原因と言えると思います。 ご家族の同意の下で解剖すればある程度は分かる可能性があります。 しかし、接種後に胸痛や息切れなどの症状がなく、突然亡くなるほどの症状が出るのは、刺激伝導系の炎症などを除きかなり考えにくい
もう1つ、異物が原因という可能性について。 まずそもそも、当該ロットは異物が見つかったロットではありません。 異物が見つかったロットと同じ施設で同じ時期に製造されていただけです。 このロットを使った医療従事者が全員異物に気づかなかったのかも知れませんが、まずはこういう状況です。
さて、このロットにも異物があったとして、それが「接種から数日経った突然の心停止」をきたすのでしょうか? これは極めて考えにくいです。 「接種から数日経って」「突然」というところがポイントです。
投与したその場で心臓が止まるような注射薬はいくつかあります。 しかし、「投与直後には特別な症状がないのに、数日してから突然心停止を起こす薬」というのは知らないです。 そんなものがあれば、容易に完全犯罪が成立します。 同じバイアルを接種した人に異変がないというのもおかしいでしょう。
ましてやそんな物質が故意ではなく、製造過程で偶然混入するとは到底思えません。 (故意なのであればそれは殺人であり、ワクチンの安全性の問題ではないでしょう) どちらも「絶対に起こり得ない」ことを保障はできませんが、接種を止めるリスクの方が大きいという厚労省の判断は妥当だと思います。
にも関わらず、専門家の調査の途中で、個人のエピソードを取り上げて、いたずらにワクチンの安全性に疑念を抱かせる報道を行ったことは、流石に看過できません。 何の科学的な根拠にも基づかない批判的な記事は有害でしょう。 この点は、朝日新聞は考え直していただく必要があると思います。
https://twitter.com/mph_for_doctors/status/1432660803757359105以下に連なるツイートより。
ワクチン起因である死亡であることの可能性が低いことを示唆しつつ、「いたずらにワクチンの安全性に疑念を抱かせる報道を行ったことは、流石に看過できません。」と報道を非難する。
当時は8月25日にワクチンへの異物混入が報じられており5、調査中であったことからもかなり敏感に反応しているようです。6
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の資料より
例によって、この死亡例は厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の資料に掲載されています。7
報告資料のPDF6ページ目、No23の列に記載されています。 (赤枠内)
本症例の2回目の接種に使用されたワクチンは、異物混入が確認されたロットと同時期に同設備で製造されたことにより使用を見合わせられたロットである。剖検の結果死因は
専門家による評価【令和4年11月11日時点】
不明とされており、情報不足のため死亡とワクチン接種との因果関係は評価不能である。使用ロットに異物混入があったとした場合に異物が本症例の死亡に与えた影響についても同様に評価不能である。
※~9/2から変更なし。
解剖もされているようですが、厚生労働省の専門家評価では、情報不足により因果関係は評価不能となっているようです。
とはいえ接種後死亡事例には掲載されていることには変わりはりません。このような事例を報道を通じて知ることは許されないことなのでしょうか?
ワクチン・医療に対する極度の不安障害的態度
では、この記事一つで接種率に大きな影響を及ぼすかといえばそうでもなく、異物混入などの不祥事はあったものの、2回目接種を行ったのは全国民の8割に及ぶことは既にニュース等でご存じのことと思います。8
そして、「オミクロン株」対応型の接種が進まないのは、このような報道ではなく接種者が副反応で苦しんだから、ということも覚えておきたいところ。
その後
さて、この広島市の男性の死亡についてはその後日テレ系の広島テレビにて追跡取材が行われています。報道内容はYoutubeでみることができます。
警察より、2022年7月27日に鑑定書が届き死因は「全身性炎症反応症候群」とされたことがわかります。
ワクチン接種が契機となった可能性は否定できないが、解剖・検査所見のみから内外因死の別を判断することはできない。という一文が見えます。
異物原因説は無くなりましたが、遺族としてはこの結果だけでは納得できないでしょう。
警察への司法解剖の詳細について情報開示を求め、予防接種健康被害救済制度の認定を目指す旨が報じられています。
すぐに報じれば調査中なのに早いと言われ、日にちがたてば因果関係の実証が難しくなる理不尽。
報道の最後に述べられているコメントの通り、接種後のケアの体制強化が求められます。
脚注
- 記事魚拓
- 新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要(スパイクバックス筋注、モデルナ・ジャパン株式会社)より。詳細は後述。
- 魚拓
- 魚拓
- 新型コロナワクチンの異物混入への対応
- 結局、混入した異物は製造機器の組立て時の不具合により混入したステンレスの破片であったとされる。(前掲のリンク内参照)
- 第88回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第18回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料資料1-3-2 新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要(スパイクバックス筋注)→リンク先PDF注意
- 新型コロナワクチンの接種状況(デジタル庁)